「の」が最も難しい
悪筆なのは昔からでして、それも度を超しているものですから、時々日本語と思われないこともあるので、普段からなんとかせねばとは思っていたところ、縁あって、筆文字を教えていただく教室を知ったので、土曜日に行ってきました。
その日は平仮名に限って教えていただきました。
そもそも筆を持つことさえ、年に数回しかない生活をしてるわけで、たいした文字を書けるわけではありません。
その教室に行って先生がおっしゃるに、平仮名といっても、実はある特定の形の組み合わせと応用できているのだということです。この日の先生がおっしゃっるのに僕は初めて知り、驚きました。
たとえば「へ」の逆V形の形状は「え」の文でも下部にあります。しかも「ま」の字の下部にも「へ」が含まれてるのですね。こう文章で書くには旨く書けないのですけど、説明を聞くと納得できたお話しでした。
「の」の字も「あ」や「ぬ」や「ゆ」の一部に含まれているのです。
いままで意識しなかったのですが、確かにそうですね。でもこんな単純なことさえ、どうも学校で教わった記憶がないのです。教えてるかないまは?
そのとき、平仮名の中で書くのが最も難しい文字は「の」であると先生がおっしゃってました。「の」の字はを書くために筆を使うとその筆が一回転するので、文字のなかでもっとも難しいのです。きっとこれを書ければ、一人前なのでしょうか。
その日から、「の」を美しく書けるように気をつけています。
さて、その教室がとても静かなことに気づきました。場所は大阪市でも境筋に近い島之内にあるビルのなかだったのですが、クルマの音も聞こえません。
そんな静かな場所でじっくり文字をかくことが実に久しぶりだと、そのとき気づいて驚きました。
僕は日常的に、文字を書いているときといえば、クルマの騒音のなかだったり、誰かの話を聞きながらだったり、電話をかけながらだったり、うるさい事務所のなかであったりと、何らかの音を聞きながらなのだです。
静かな環境でただ文字を書くという行為は、実に何年ぶりなのか思い出せないほど久しぶりだったのです。
「ただ文字を書く」、それを意識するだけで、自分を別の観点から感じられるのだと、改めて気づいたしだいでした。